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| | Nuitのひとりごと
15
夏の終り〜「La fin d'ete」
東北の山は深い。なんて深いんだろう。
私は夏の終りの雲に沈んでいく夕陽をしばし見つめていた。山形はもうすっかり秋の気配がする。東京から2時間半で別世界だ。
蔵王は、もちろん冬場がベストシーズンなので、夏の終りはいつも人が少ない。なんだかこの山々が私だけのものになったかのような感じだ。ひと仕事終えて、カメラマンに送ってもらい、山の入り口にある今晩の宿へと向かった。
「やあ、いらっしゃい。お疲れだね。お風呂、沸かしてあるよ」
ご主人はいつも満面の笑顔で迎えてくれる。ヒバの木を縦に組んで作った素敵なログハウスだ。お部屋やお風呂はすべてヒバのとてもいい香りがして、疲れた体を心地よく癒してくれる。さっそくお風呂を頂いた。遠く山形市内の夜景や、満天の星空が望めて、この上なくゆったりとした気分だ。
お風呂から上がると、すっかりお夕飯の支度が出来ていた。近くで取れた山菜のおひたしや天ぷら、とろけるような米沢牛のステーキ、独特のコシがある山形のお蕎麦など食べきれないほどである。
「明日も撮影なんでしょう?しっかり食べてね」
どれもこれもみなとびきりおいしい。
私はここへは今までに何回か来ているけれど、誰かと一緒に遊びで来たことがない。いつも仕事で、しかもいつもオフシーズンばかりなので、いつもお夕飯時は広いダイニングにポツンとひとりだ。が、今日はめずらしく他にお客さんがいる。お母様と22、3歳くらいのお嬢さんだろうか、となりのテーブルで会話を弾ませながら楽しそうに食事を取っている。ここは、宿泊しないとお夕飯が頂けないので、おそらく今日は泊まっているに違いない。
「どちらからいらしたんですか?」
お母様は、ひとりでいる私を不思議に思ったのか、声をかけてくださった。
「東京からです。仕事なんですよ。本当はゆっくりしたいんですけど、いつも新幹線でとんぼ帰りで...。明日のお昼には帰ります。お二人はどちらからですか?」
「ここから15分くらいのところからなんですよ」
「えっ?」
私は一瞬耳を疑った。なんと、このログハウスと同じ学区内にお住まいらしい。
「こんな素敵なところが近くにあると知ってから、主人が仕事で留守のときなど、週末たまに女ふたりで一泊して、のんびり過ごすんです。散策したりね。食事もおいしいし、お風呂にもゆったり入れますでしょう?」
私は驚いた。家から15分のところに旅行に来るなんて、なんて贅沢なんだろう。東京では考えられない。しかも、年頃のお嬢さんと一緒というのも驚きだ。私も確かに母とは仲がいいけれども、一緒に住んでいるのにわざわざ旅行に出かけたりするほどではない。
それにしてもこの母娘は会話が途切れることなく、ゆっくりと食事をしながら延々としゃべっている。よくもまあ、これだけ話題があるかなという感じだ。私もすっかり家族の一員、今宵ひとときのお姉さんになり、いつの間にか会話の中に溶け込んでいた。
翌朝早く、山寺のさらに奥にある「遊仙峡」という谷へ行った。空気がひんやりしてピンと張りつめている。自然の音以外は何も聞こえない。はるか頭上から鬱蒼と木のつるが垂れ込めて、つるの合間から朝陽が射し込み、水面がキラキラ光っている。光の中から今にも本当に仙人が出てきそうだ。
陽が高く昇って来て、光の角度が変わると、もう撮影は終りだ。私はお昼過ぎの新幹線に慌ただしく飛び乗った。仕事の後の心地よい疲れでふっと眠りにつき、気がつくともう終点だった。東京駅のホームに降り立った。ホームには人が溢れかえって、蒸せかえるような暑さである。いつもの東京の風景だった。
ログハウス三百坊
西蔵王の西行法師ゆかりの宿坊跡に建つログハウス。1年を通して山形の四季を楽しむことができます。
http://www.yamaha-motor.co.jp/snowmobile/ichiran/tohoku/nishizao.html
http://www.mwnet.or.jp/pension/yamagata/yamagata2.html
Mini Gallery
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「La
fin d'ete」 Yamagata,
1999
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