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coffee1s Nuitのひとりごと 17

春の雨〜「Les parapluies de Shibuya」

東京は久しぶりに春の雨になった。お気に入りの、紺地に小さな白い水玉の傘とお出掛けだ。

しばらく傘を使ってなかったからすっかり忘れていたけれど、この傘、数ヶ月前からベルトの銀色のボタンが無いんだった。もう何年も使っている傘だから、ボタンの糸が自然と切れてしまったのだろう、気がついたときにはボタンが取れてなくなってしまっていて、仕方なく髪の毛の黒ゴムで傘が広がらないよう留めて使っていたのだった。直さなきゃとは思っていたものの、このままでもなんとか一応収まりはついているし、ついつい時間がなくてそのままになっていたのだ。

よく見ると、なんだか傘もゴムで締め付けられてとても苦しそうである。雨に濡れて泣いているようにも見えて、なんだか急にかわいそうに思えてきた。どこかにボタン屋はなかったか、と歩きながら考えた。でも渋谷の街にはなかなか見当たらない。とそのとき、時々通っているクリニックのビルの1階が確かボタン屋だったのを思い出した。

行ってみると、ボタン屋はいつのまにかアメリカから来たおしゃれなコーヒーチェーン店に変わっていて、雨なのに軒先のオープンテラスのテーブルまでお客さんでいっぱいでとても賑やかだった。ボタン屋はなくなってしまったのかと残念に思っていると、壁に手書きの貼り紙で、
「ボタン屋はこちらに移転しました」
と矢印で示してある。コーヒー店の横の狭い路地を抜けると、表通りの喧騒とはまるで別世界のように静かで、ボタン屋はそこにひっそりと立っていた。

「あの、すみません、傘のボタンが取れてしまって、似たようなのを探しているんですが...」
というと、お店のおじさんは壁一面の棚からゴソゴソと銀色のボタンをいっぱい出してくれた。銀色のボタンと一口に言っても、ものすごくたくさんの種類がある。平らなものやぷっくりしているもの、模様がついているもの、重いもの、軽いもの。傘のボタンなんだから適当にどれでもいいのに、どれにしようかさんざん迷った後、私は結局マットなシルバーの何の飾りもない一番シンプルなボタンをひとつ頂くことにした。
「ぴったりのがあって、よかったですねえ。ありがとうございました」
口数少ないお店のおじさんにそう言われて、お店を出た。

なんだか急にうれしくなってきた。明日晴れたら、傘を干してさっそくボタンをつけてあげよう。

桜はもうすっかり散ってしまったけれど、その代わり色とりどりの傘で、まるで渋谷の街中に花が咲いたようである。毎日降るのは嫌だけれど、たまには雨もいいものである。

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このページの最終更新日は 2001/12/04 です。
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