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トーホーセーメービル〜「TOHO Seimei Bldg.」 渋谷にひとつだけ目立つ高いビルがあって、それが「トーホーセーメービル」という名前だというのは、高校生の頃からなんとなく知っていた。首都高のすぐ脇に立っていて、池尻方面から走ってくると、正面に突っ込んでしまいそうな錯覚になる、あのビルがそうだ。 昨年から私が通っている矯正歯科は、そのビルの21階にある。ガラス張りなので、左手に新宿の高層ビル群、右手に東京タワー、眼下には代々木公園や新宿御苑の緑、首都高を走る車の波、そして渋谷の喧騒、それらが全て自分の手中に収まったかのようによく見える。夕暮れ時の真っ赤に染まった空に浮かび上がる富士山の美しいシルエットや、不夜城のごとく明かりの消えない大都会の夜のしじまも、また格別に美しい。診察台からの眺めは、おそらく日本の歯医者サンの中では間違いなく一番だろう。 私の歯科は、なぜかやたらややこしくて長い名前がついていて(名前の長さも日本の歯医者サンの中で一番かもしれない)、まるで早口言葉みたいなので、いつも「どこの歯医者サンに行っているの?」と聞かれると、答えるのが面倒なので「渋谷のトーホーセーメービルの上なの」と答えていた。「ああ、トーホーのビルね」とみんなすぐわかってくれるし、こっちのほうがとても言いやすい。 それが今日、朝刊の見出しに大きく「東邦生命破綻」と出ていた。春先くらいから、ビルのトイレに張ってある「禁煙」の張り紙が、「東邦ビル管理」から「三井不動産ビル管理」のきれいな張り紙に変わったなあと気がついてはいたが、ついに破綻か。もしかしたら、ビルの名前もそのうち変わってしまうのだろうか。 亡くなった尾崎豊さんという歌手のことは、私はよく知らないけれど、彼もこの「トーホーセーメービル」の3階のテラスからの眺めがこよなく好きで、学生時代いつもここに一人でたたずんで歌を作っていたそうだ。テラスには彼の歌を刻んだレリーフがある。会社破綻で社員の方々はそれどころじゃないかもしれないけれど、ビルの名前がなくなったら、天国の彼もきっと残念に思うことだろう。 |
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2002/04/20
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